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かえる目(かえるもく)「主観」(CN0014)

販売価格 2,000円(税込2,200円)
型番 CN0014

レーベル:compare notes(map)
品番:cn-0014
フォーマット:CD
JAN:
2007.10.10発売予定


おっさんの体にユーミンが宿る!
湖東の才人・細馬宏通が綴るイヤんなるほど生々しき歌、今年最後の問題作!

[track list]
1.音痴というもの
2.ふなずしのうた
3.あの寺へ帰りたい(弁慶の引き摺り鐘の伝説)
4.高度情報化社会
5.坂の季節
6.能登の恋人
7.女学院とわたし
8.女刑事夢捜査
9.パンダ対コアラ
10.リリパット
11.浜辺に
12.八月三十一日


 現在の日本において、最も信頼できる文筆家のひとりであり、常人では理解し難いほどの多方面/多ジャンルにおける研究家でもある琵琶湖湖東の知性・細馬宏通(a.k.a. かえるさん/ EV)。そんな氏が40歳を過ぎて突如歌い始めた、と聞いたのは、今を去ること3年ほど前のことだったか? それまでもYuko Nexus 6 らと共にサウンドアート(と呼ぶにはあまりに抜け作)風の演奏活動を行なっているのを何度か目にしたことはあったけれど、「本気も本気」と、人づてに聞き、「それ、見たい!」と心から思ったものだった。それは、社会的地位も分別もある大人が、その存在から最も遠い場所にある「荒井由実」と「ユーミンの世界観」を、本気で憑依させようという馬鹿げた行為自体に惹かれた、というのが本心だった。

 しかし、それから1年後、初めて目の当たりにした「かえる目」は、そんな斜めに構えていた私を後ろからガッツリと羽交い締めし、背筋をシャンと延ばさせるような力を持っていた。そこに流れていたものは、ミュージシャンの楽屋落ちでも、「似非〜」や「〜風」なちゃらけたものではなく、ただただ純粋に「音楽」そのものだった(ニューミュージックの「構造」に対する的確な批評でもあるわけだが、それはまた別の話)。「旋律」が持つ可能性と力、そして「言葉」自体が持ち合わせたリズムとイメージを最大限に用いて、かつて強者たちの手で綴れ織られた「荒井由実の世界」を、どこまでもスッカスカの音像とお世辞にも巧いとは言えない歌声だけで見事なまでに表出させていたのだ。言うまでもなく、表層はまったく違うもの。ただ、間違いなく、この音楽とあの音楽は地続きにあるのだとはっきりと確信させる「何か」があった。その瞬間から、精通前の少年時代、ユーミンの歌声
にときめいたのと同じ気持ちで、私はかえる目の虜となった。

 そして、今、手元にある1枚のCD は、その「何か」が何
であるかを明確に示してくれるものだ。最初はきっと、「なんじゃ、こりゃ?」という大きな?マークと笑いがこみ上げてくることだろう。しかし、徐々に最初にあった異物感が心地良さへ、そして得も言えぬ感動へと移り変わっていくことに気付かされることだろう。「お腹がすいて/ふなずしを思い出した」だの「カニづくし/あなたは積み上げる殻のように/うつろな人」なんてぇ得体の知れぬ言葉に、なぜに心を震わされにゃならんのだ……という複雑な思いも、最後まで聴き続ければ必ずスッキリ解決させてくれるはず。もちろん、今、その理由を言葉で説明することもできるけれど、それって、ちょいと野暮ってもんじゃない?

 ちなみに、かえる目は、細馬宏通の詞/曲を再生させるために集まった熟練工たちの総称である。今の東京アンダーグラウンド・シーンで、最も複雑怪奇八面六臂な活動を繰り広げている異能音楽家・宇波拓(ホース、大友良英ニュー・ジャズ・オーケストラ、他)がギター、希代の粋人であるマルチ・インストゥルメンタリスト中尾勘二(ストラーダ)が、パーカッション&クラリネットを担当、そして生々しいカウンター・メロディを奏でるヴァイオリンに木下和重を配置したカルテット。低音が欠落した無駄のないシンプルな演奏は、聴く者に生楽器の響きの美しさと、音符の間を再確認させてくれるものだろう。また、今回のレコーディングは、ハンドメイドのコンデンサ・マイクを使用し、宇波の手で録音&ミックス。手を伸ばせばそこに楽器があるかのような、恐ろしく生々しい触感に仕上がっている。この艶めかしい音だけでも一聴の価値アリアリです。また、ジャケットのアートワークには、唯一無二の歌を奏でる倉地久美夫が担当。細部にまで魂が宿ったとんでもない絵に仕上がっている。

 そんな生々しい音で届けられる異物感だらけの音楽なの
に、どこかで耳にしたことがあるような既聴感と懐かしさに出会える特別な歌。まずはともあれ、耳にしてケロ。
──小田晶房(map)
 
 
[細馬宏通 著作リスト]
・『ステレオ−感覚のメディア史−』吉村信+細馬宏通【ペヨトル工房】
・『浅草十二階塔の眺めと〈近代〉のまなざし』細馬宏通【青土社】
・『絵はがきの時代』細馬宏通【青土社】
・『二桁のかけ算一九一九』かえるさんとガビンさん【幻冬舎文庫】
・『一桁× 二桁のかけ算九一九』かえるさんとガビンさん【幻冬舎文庫】
・『人はなぜコンピューターを人間として扱うか −「メディアの等式」の心理学−』リーヴス/ナス著 細馬宏通訳 【翔泳社】
他、寄稿多数。
現在、滋賀県立大学人間文化学部人間関係専攻准教授。

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