BRIDGE INC. ONLINE STORE

ブリッジ限定・特別企画 第二弾
<鈴木惣一朗・2019年 『マウンテン・バラッド』について語る>




『マウンテン・バラッド』を生むきっかけとなったライ・クーダーの大好きなアルバム『紫の峡谷』(1972年)と一緒に。



ドブロ・ギター



全体的に明るい作風で「ユナイテッドアローズ(グリーン・レーベル・リラクシング)」のラジオCM曲にも使われたり、当時曲を耳にする機会も多い作品でした。『カントリー・ガゼット』の時から変わって行く時代背景の中で、当時のご自身の気持ちが表れた作品なのでしょうか?

-暗くてゴシックな『カントリー・ガゼット』を出した時には、「デイジーワールド・レーベル」がどう続いて行くか確証なんてなかった。取りあえず「ディスカバー・アメリカ・シリーズ Vol.1」と付けたけど「正直、続かないかも知れない」と思ってたし、見通しはいつも不明だった。でも「Vol.2」を出せる事になって、その喜びと共に「Vol.2が作られるなら、Vo.3まで行けるんじゃないか」と、自分が長い制作期間に入った感があった。その頃は仕事や休暇で、頻繁にアメリカ南部やハワイに行ったりもしてたので、自然と「明るく伸びやかな音楽をやってみたい」となっていく。カントリー・ミュージックや、ハワイのスラック・キー・ギターって、そもそも明るいもの。でも「自分が普通にやっても、普通にならないだろう。普通にならないなら、いいじゃないか」という確証もあった。でも、実際にカントリー・グループを組んだりする気にはならず、ひとりで地道にやって行こうという時期。その後、運命的にハワイの中古楽器屋で、1930年代のナショナルのドブロ・ギターに出会う。そのギターに触ってると、どんどん曲が出来た。制作途中「これから自分が作るアルバムは、何か、自分のキャリアの頂点<ひとつのかたち>になるんじゃないか」と思い始めていた。

アメリカ、ハワイと言えば、同時期にジャック・ジョンソンのようなサーフ・ミュージックや、トミー・ゲレロのようなギター・インストゥルメンタルが出てきましたが、それらの影響はあったのでしょうか?

-この後ハナレグミのプロデュースをやったりもするんだけど、この時期、ドノヴァン・フランケンレイターを聴いたりもしてた。サーフ・ミュージックは「ロハス」だったり「オーガニック」だったり、70年代の「ヒッピー・カルチャー」のような感じというか。「バック・トゥ・ネイチャー」な感覚が盛り上がっていた。そうした感覚は、僕は90年代初頭に(細野さんが言うところの)「メディスン」で体感していたし、都会的なものより、郊外、田舎の生活の方が洗練されているっていう風潮は僕なりにわかった‥‥でも、自分の音楽はやっぱり、ねじ曲がっちゃってるし、全然ジャック・ジョンソンみたいにはならなかったな。

元々、そうなるだろうから、面白いものが出来るだろうと?

-僕の身体の中では、音楽の(おかしな)化学変化が起きやすい。「だから大丈夫!」という根拠のない自信です。

それぞれ印象深い楽曲かと思いますが、どの曲が気に入っていますか?

-最初の「ハワイアン・ゴールド」とか、「アロハ・オエ・ブルース」とかかな。ハワイをベースにしてスライド・ギターで作っている曲は自分でも好きだった。

普段音楽をあまり聴かない人にとっても、アコースティック・ギターの音色はとっつきやすいものだと思います。そういった曲が「ユナイテッドアローズ(グリーン・レーベル・リラクシン)」のラジオCM曲などに使用されていましたが、どういった経緯だったんですか?

-「ユナイテッドアローズ」のヘッドの栗野さんに呼ばれて、原宿のオフィスで「これからグリーン・レーベル・リラクシングというものを立ち上げます」と宣言された。それで、店内BGMの選曲をさせて貰えることになり、その中で『マウンテン・バラッド』もかけて貰えることになった。さっき話したように「バック・トゥ・ネイチャー」な風潮を「ユナイテッドアローズ」も捕まえたというか、やろうというわけ。だから「あ!これって何か、凄くタイミングが合ってるんだな」と自覚できた時期。時代のタームの空気感と、自分の音楽がリンクした瞬間。

そんな中、ヴァン・ダイク・パークスに音源を渡して気にいって貰えたり、オルタナ・カントリーの音楽家ジム・ホワイトに「ソギー・ソウイチロウ、イイネ!」と言って貰って、その後一緒に作ることになったりしていく。シリーズの「Vol.2」としては<ホップ、ステップ、ジャンプ>の<ステップ>を上手に踏めたかな、と思ってた。

当時、ラジオでかかりまくっていましたよね。

-前作『カントリー・ガゼット』の音楽がループを使ったものだったので(問題点として)コード進行が単調なものになっていた。ループを外したら自分のメロディが戻って来て、どんどん曲が出来るんだよね。とにかく幾らでも曲を書くことが出来て、一日3曲くらい書いたりしてた。なので、メロディとハーモニーが戻ってきたというのが、僕にとっての『マウンテン・バラッド』の印象。インストゥルメンタルで、歌は入っていないんだけど「歌っているアルバム」だと思う。

リマスターで、音は結構変わりましたか?

-エンジニアの原(真人)くんが頑張ってくれたんだけど、「今のマシンならこんなに変わるんだ!」と思った。リマスター『マウンテン・バラッド』は、スマホで聴いても明らかに違う音。それまでのリマスター作業は「音量は上がったけど、ちょっと歪んでんじゃない?」という感じだったと思う、一般的には。でも、プラグインの向上で急激に音は良くなった。その驚きの中で、僕は他の監修物(『銀河鉄道の夜・特別版』『NON-STANDARD collection』)も同時にしてたんだけど、今回のワールドスタンダードの『ディスカバー・アメリカ・ボックス』は、全体の楽音の倍音が補正されている。だからナチュラルで聴きやすくなっている筈だし、かつて聴いていてくれた人にはこの感覚を、是非、味わって欲しい。

これは大事な情報ですね。

-ホント、聴いて欲しい。

この作品をひと言で表すとしたら?

-『マウンテン・バラッド』は、数あるぼくのアルバムの中でも「私小説的」。凄く、個人的な世界。『マウンテン・バラッド』を作っている時には「ディスカバー・アメリカ」っていうお題目はあるけど、どうやったっても、自分の音楽はねじ曲がったものになるんだから‥‥という、ある種の開き直りがあった。迷いがないというか、それが皮肉にも良いメロディを生んだんだと思う。さっきの「ユナイテッドアローズ」になぞって言うと。<肩幅が合っていて、袖丈も合っているジャスト・フィットのジャケットを着ている心地良さ>みたいなもの。だから、僕みたいな(音楽的な)背丈のリスナーは、ジャスト・フィット、心地良いって思うはず。

<2019年2月 都内某所にて。>


ブリッジ限定・特別企画 第一弾 <鈴木惣一朗・2019年 『カントリー・ガゼット』について語る>はこちら。

ブリッジ限定・特別企画 第三弾 <鈴木惣一朗・2019年 『ジャンプ・フォー・ジョイ』について語る>はこちら。

『マウンテン・バラッド』を含むワールドスタンダード『ディスカバー・アメリカ・ボックス』の購入はこちら

 

copyright BRIDGE INC.